佐藤芳嗣法律事務所

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シニアの相続2  ー相続と遺言の準備についー

はじめに

前回に続き相続のお話しをします。相続は法的には人の死の瞬間に始まるわけですが、人間誰でも生きているかぎり、自分が死ぬことを考えることは愉快なことではありません。できれば自分もいつか死ぬことは忘れたい、考えたくないのが人情です。我々弁護士は、法律相談で高齢者の相談者に、「自分が死んだ後のことを今のうちによく考えておいた方がよいですよ。遺言書を作成しておいた方がよいですよ。」と助言します。  素直に聞き入れる人もたくさんいますが、ご自身が死ぬことを前提に死後のことを考えることを嫌がる人もいます。
高齢者を抱えた家族が法律相談に来ることもあります。弁護士からみると、将来相続でもめそうだと思われるケースがたくさんあります。父親が再婚して、先妻の子どもさんと後妻さんあるいは後妻さんとの間の子どもさんがいるような事例では特にそうです。ところが、父親(妻の場合は夫)に遺言書を書いて下さいとはなかなか言えないようです。中には、恐る恐る父親に遺言の話しをしたところ、「俺を殺す気か」と怒られた依頼者もいます。
多くの日本人は、自分が死んでも自分の家族は相続でもめはしない、遺言をしなくても我家に限って醜い相続争いは起きないと信じ込んでいます。したがって、日本では、遺言書を作成する人は少数派です。その背景のひとつとして、日本では世界的には珍しいほど戸籍制度が整っていることが考えられます。日本では子どもさんを含めて法定相続人が誰であるかたいがいの場合戸籍で特定できます。しかし、世界的には日本ほど完備された戸籍制度が存在せず、誰が相続人か公的に特定しにくい場合があります。自分の子どもでも日本のように戸籍(公的記録)に記載されていないことも多いのです。このような戸籍制度の完備していない国では、遺言で相続人の範囲や相続分を決めておくことが必要不可欠なのです。私が知る限り、アメリカ合衆国などでそれなりの遺産を残す人は、遺言を残す人の方が多数派なのです。これは、日本と法文化が違うこともありますが、アメリカ合衆国でさえ日本はど整った戸籍制度がないことも大きな理由ではないかと思われます。

生前贈与か相続か?

自分が形成した財産を家族に残す方法としては「生前贈与」と「遺言」での相続があります。生前贈与は生きている間にはぼ確実に財産を妻や子に移転できます。
相続だと、ご本人の生前に財産の移転を見届けることはできませんし、生前贈与のように家族から直接感謝されることもないかも知れません。ですから生前贈与には生前贈与の利点があるのです。しかし、法律家から見ると生前贈与には以下のようなマイナス面があります。すなわち、生前贈与には贈与税という多額の税金がかかるのです。両親等から多額の生前贈与を受けたとしても相当多額の贈与税を国に支払わなければなりません。日本の現在の税制度では、同じ価値の移転でも贈与税の方が相続税よりも税率がかなり高いのです。この点が、生前贈与の大きな弱点です。
もっとも20年以上連れ添った妻に居住用の不動産を生前贈与する場合は2千万円まで無税とされています。この制度を利用する人も近年増えています。また、最近は、住宅取得資金について、子どもが親などから生前贈与を受けた場合、その時に税金を納付しないで、相続時に清算課税する制度ができましたので、以前より生前贈与がやりやすくなっています。
生前贈与のマイナス面として贈与税の他に、一度贈与したならばそれを取り戻すことはできないことがあります。妻や長男に感謝して自宅や多額の預金を生前に贈与したとします。贈与の後で夫婦関係が破綻したり親子関係がこじれても贈与した財産を取り戻すことはできません。この点、遺言書は死亡するまで何度でも書き換えることができます。最後の遺言が有効になるのです。ですから生前贈与をするときは、よはど考えなければなりません。特に生活の本拠である自宅や今後死ぬまでに必要な最低限度の資産の贈与については慎重にする必要があります。
元々は自分の家なのに妻や息子あるいは息子の配偶者から「自分の家だから出て行ってください。」と言われ追い出されることだってあり得るのです。
相続は生前贈与と逆の関係になります。死後の感謝でも良いと思うなら遺言で相続させればよいのです。相続税の方が贈与税より格段に安いうえ、最後まで面倒を見ない妻や子に財産を相続させないこともできるのです。但し、妻や子には遺留分と言って最小限度の遺産を相続する権利があります。この点は別の機会に説明します。なお、遺言書は、判断能力があるうちに作成する必要があります。認知症に陥ってから遺言することはできませんのでこの点注意する必要があります。

妻のことも考えて

戦前の家制度の考え方が色濃く残っている人が相談に来ることがあります。農家であるとか家族で事業をしており長男や長女が跡を取っている事例などでは、高齢者の父親は跡取りの長男・長女に全部の財産を相続させようとする傾向が強いようです。弁護士である私の方で、「妻のことは考えていないのですか?」と質間すると、「長男・長女が妻の面倒を見るから妻に財産を残す必要はない。」との答えが返ってきます。私は、「あなたの死後、妻と長男夫婦がうまくいく保証はどこにあるのですか?」と聞きます。「私の長男に限って妻の面倒を見ないなんてことは絶対ありません。」との答えが返ってきます。しかし、このような過信が悲劇をもたらすことがあります。私の経験では、自宅を長男に相続させたばかりに、80歳を過ぎた高齢の老人が長男夫婦に家から追い出された事例がいくつかあります。跡取りの長男・長女夫婦と夫に先立たれた妻が生涯うまくやっていってくれるにこしたことはありません。しかし、それは結果であって、今の時代、後に残された妻が跡取り夫婦と必ずうまくいく保証はありません。
仮に結果としてうまくいくとしても、住んでいる家について所有権がない妻の地位は不安定です。夫と共に苦労して手に入れた自宅ならば、夫婦が共に死亡した後に次の世代に引き継げばそれでよいのではないのでしょうか?次の世代に家の財産を引き継ぐことばかりが頭にあって、相続となるとご自分と苦楽を供にした妻の存在をすっかり忘れている夫が時々います。男女平等の世の中ですが、まだまだ封建的な考えは残っているのです。

遺言するなら公正証書で

遺言は自分で便せんやノートに自筆で書いても、日付が記載され、署名・押印がされていれば有効です。このような自筆証書遺言はお金がかかりません。この点は利点です。しかし、私は、自分の依頼者には、遺言するなら公正証書で遺言することを勧めています。その理由は以下の点にあります。
第一に遺言の内容についてそれがそれぞれの相続にふさわしい内容であるかどうか弁護士、司法書士、税理士などの専門家に相談された方がよいと思うからです。
第二に、自筆証書遺言は、あなたの死後、保管者は遺言書を家庭裁判所に提出し検認して貰う手続きをとる必要があります。これは面倒ですし、保管者が遺言書を隠したり破棄してしまうことさえあります。公正証書遺言ですと公証人役場に原本が保管されていますし、検認という面倒な手続きも必要ありません。公正証書遺言は公証人役場で作成して貰えます。手数料は遺産の額によりますが数万円程度です。また、証人が2名以上必要です。費用や手続きの詳しいことは公証人役場でお聞き下さい。