佐藤芳嗣法律事務所

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ハンコについて ー安易にハンコは押さないー

はじめに

ハンコの起源は今から5000年以上前のメソポタミア文明とされています。それが中国を経て日本に持ち込まれました。しかし、現在、世界的にはサインが一般的であり、日本のハンコは日本文化の特徴であると言われています。サイン文化で育ち来日した外国人から見ると日本のハンコ文化は大変不思議に思えるそうです。ハンコ文化の日本では何万円、時には何十万円もする立派な印鑑を作る人がいます。豪華で立派な印鑑を作れば運勢が良くなると信じる人もいます。しかし、私の経験では、豪華な印鑑を持っている人でも弁護士に相談する人が大勢いるので印鑑で人の運勢が変わることはありません。
ところで、明治政府は、明治10年に、「証書の姓名欄には本人が自署し、実印を押すこと。自署が無理な場合でも実印は必ず押すこと。」との太政官布告を発しました。これ以来、日本では毎年10月1日が印章の日とされ、日本の社会生活では印鑑が必要不可欠になりました。
ハンコは、様々な書類や図画を作成する際に、誰が作成した書類・図画であるのかその主体を明らかにする為の制度です。日本では、ハンコを作成名義人の下あるいは横に押して、作成名義人が自ら作成した書類や図画であることを明らかにします。そして、日本には、市町村役場や登記所に特定の人あるいは会社のハンコによる印影であることを登録し、登録を受け付けた役所が、特定のハンコによる印影が特定の人あるいは会社の登録された印影であることを証明する「実印の制度」まであります。このようなハンコの文化は、今ではすっかり日本に定着し日本文化の特徴となっています。
しかし、私のように長年弁護士の仕事をしていると、ハンコひとつで人生が狂った人々の多いことに驚かされます。今回は、「安易にハンコを押さないで」のテーマでお話しをします。

ハンコの管理について

Xという人がAという印鑑を自分の印鑑として日頃使用していたとします。このAという印鑑の印影が押された文書や図画はXが作成したものと法律により推定されます。したがって、Xがその書類や図画は自分で作成したものでないと主張しそれが認められるためには、この法律上の推定を打ち破る事実を主張しそれを証明する必要があります。しかし、YがXの同意を得ずに勝手に押した事実を証明することはそれほど容易ではありません。したがって、あなたのハンコが勝手に使われないように厳重に管理する必要があります。ところが、日本では、多くの家庭や職場でのハンコの管理は実に杜撰です。家庭では、タンスや仏壇の引き出しに印鑑が置いてあります。あなたの妻や夫、あるいは子や孫はあなたの印鑑を自由に使用できるのではないでしょうか?あなたの妻や夫あるいは子や孫があなたの印鑑を勝手に使ってあなたの名前でサラ金から金を借りたり、あなたを他人の借金の保証人にいつの間にかしていることがよくあります。この場合、あなたの印鑑が勝手に使用されても直ぐには発覚しません。あなたの妻や夫などが借りたお金を返さなくなって初めてあなたの印鑑が勝手に使われたことが発覚するのです。これはしばしば何年も後のことであり、同居の親族であるあなたの同意を得ずに勝手に誰かが押印したことを証明することは困難な場合が多いのです。したがって、ハンコが勝手に使われないようにするために金庫などにハンコを保管しその金庫を開けられるのは限られた人に限定する必要があります。

保証人になるのはよく考えてから

あなたの印鑑が勝手に使われる場合よりもあなたが承知の上で保証人になり、お金を借りた本人が返済しないため、保証人であるあなたの責任が問われるケースの方が多いと思います。しかし、我々は、親戚や友人から保証人を頼まれることがよくあります。保証人を頼む際、保証人を頼む人は、「絶対に迷惑を掛けないから保証人になってもらいたい。」と必ず言います。しかし、保証人になるということは、お金を借りた本人が倒産その他の理由でお金を返済できなかったときに本人に代わってお金を返済する責任を負うことを意味します。保証人を引き受ける以上、「絶対に迷惑がかからない」保証人はあり得ません。保証人を引き受ける段階で、あなたは、自分がお金を借りたことと同じだと考え、いざというときご自分で責任を負担することを覚悟する必要があります。借りた本人が行方不明になったり、倒産して破産した後で、「絶対に迷惑を掛けないからと言われたので保証した」と弁解しても後の祭りです。こんなことを言うくらいなら最初から保証人になるべきではありません。ところが、日本人は親戚や友人に頼まれると、自分の実力以上に気軽に保証人になります。このため、他人の借財のため全財産を失う人が今も昔も絶えません。「安易に印鑑を押すな。押すときはよく考えていざというときを覚悟して印鑑を押せ。」これを家訓にしている家もあるのです。これは、子孫がハンコひとつで全財産を失わないためなのです。

身元保証について

あなたの子どもや甥・姪が就職するときあるいは友人の子どもが就職するとき身元保証人を依頼されることがしばしばあります。身元保証人を頼まれると断りにくい場合が多いと思われます。断ったら、兄弟付き合いや親戚付き合いがぎくしゃくするからです。身元保証をしてから何年もして就職した甥や姪が会社のお金を横領したり、仕事上の過失で会社に損害を与えることがあります。銀行などの多額のお金を扱う職場では、何千万円時には何億円もの損害を仕事先に与えることさえあります。仕事先に損害を与えた本人には支払能力がありません。損害を被った使用者は、身元保証人を引き受けたあなたに損害賠償を求めます。しかし、あなたは必ずしも損害の全額を支払う必要がありません。身元保証人の責任を制限する「身元保証ニ関スル法律」という特別法があるのです。この法律は、身元保証人の責任期間を原則として3年、長くて5年に制限しています。また、身元保証人の責任の範囲についても、使用者の監督上の落度その他の諸事情を考慮して制限することができることになっています。したがって、身元保証人の責任が問われても会社のいいなりに全額支払う必要はありません。何年前に身元保証人になったのか調べる必要があります。また、身元保証人が責任を負担する期間内であったとしても、損害が発生した事情をよく調査する必要もあります。複雑な事情があるときは弁護士などの専門家に相談し、場合によっては裁判所に責任の範囲を判断してもらう必要があります。