佐藤芳嗣法律事務所

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外国人の人権を考える - 外国人との共生をめざし

第1 今なぜ外国人の人権問題を取り上げるのか(日本における国際化の進展と外国人の人権状況)

  1. 出入国などの統計から見た「国際化」の進展

    今から約10年前の1985年に、海外に渡航した日本人は約500万人、入国した外国人は約226万人でした。ところが、7年後の1992年になると海外に渡航した日本人は約1180万人、日本に入国した外国人は約400万人に激増しています。しかもその中味を検討すると、近年アジアや南アメリカからの入国者が激増し、その約70パーセントがこれらアジア諸国や南アメリカからの入国者です。
    海外に滞在している日本人は1991年の統計によると約66万人であり、このうち北アメリカやヨーロッパに半数以上の約40万人が滞在しています。アジアには約10万人の日本人しか滞在していません。他方、1992年における外国人の日本人における滞在者をみると約130万人が外国人登録をし、その内約100万人がアジア出身の「外国人」です。この中には、約60万人の「在日韓国・朝鮮人」が含まれております。外国人登録していない「オーバー・ステイ」の外国人が約30万人おりますので、現在日本で生活している外国人は160万人を超えていると推定されます。
    長野県で外国人登録をしている外国人は1993年12月末で約2万人ですが、この他にかなり大勢のオーバー・ステイ(不法滞在)の外国人が県内で暮らしております。
    また、1993年度の日本における結婚件数は約79万3000件でしたが、この内約2万人7000件、率にして3.4%が国際結婚でした。国際結婚は過去10年間で実に3倍増となっております。
    両親のうちどちらかが外国人の子供は1993年1年間で約1万9000人生まれました。このような両親のうちどちらかが外国人である子供達は今後ますます増加すると思われます。
    以上に述べたこの様な人の移動の面から見た「国際化」の急激な進展は、かつて、日本や日本人が全く経験したことのない新たな状況の出現であり、日本全国において現在外国人をめぐる様々な人権問題が発生してきている大きな社会的背景となっています。

  2. 日本における外国人の人権問題の概要

    (1)在日「韓国・朝鮮人」をめぐる人権問題
    戦後の日本における外国人の人権問題の中心テーマは、在日「韓国・朝鮮・台湾人」の人権問題でした。戦争中に日本に強制連行され長野県松代の大本営築造現場などで強制労働に従事させられた朝鮮半島、台湾、中国本土出身者は200万人を超えています。これらの人々の内約60万人が戦後日本に止まりましたが、日本政府は旧植民地出身者の日本国籍を一方的に剥奪し、外国人登録の必要な「外国人」として扱いました。このため、在日「韓国・朝鮮人・台湾人」は日本で生まれ、日本で教育を受け、日本語を話し、日本で税金を支払っていても日本の法律上は「外国人」であり、指紋押捺、外国人登録証の常時携帯を刑罰をもって強制され、旧軍人・軍属に対する各種の援護法や社会保障法で日本国籍が無いことを理由に日本の社会の中で長い間差別されてきました。この様な状況下で、在日「韓国・朝鮮人」の指紋押捺拒否運動、就職差別反対運動などがこれまでの日本における外国人の人権問題の中心であり、指紋押捺制度、社会保障法における国籍問題については息の長い運動の結果1部改善が見られるものの、「韓国、朝鮮、台湾」国籍の旧軍人・軍属に対する各種援護法の適用については未だに国籍や戸籍による差別条項が存在し、また、就職差別についても未だに根強いものがあります。
    「北朝鮮の核問題」を契機として、今年の春から夏にかけ朝鮮人学校へ通う民族衣装「チマ・チョゴリ」着用の女子学生などに対する暴行、脅迫、傷害事件が日本全国で多発し、すでに百件を超える事件が報告されています。
    以上に指摘したような日本の国家及び個々の日本人の韓国・朝鮮人に対する根強い民族差別は、日本国内においては現在でも重要な人権問題であり、我々は今後も差別撤廃のために努力していかなければなりません。

    (2)外国人をめぐる新たな人権問題の登場
    農村の「嫁不足」を社会的背景とし、東南アジア各国の女性を日本人男性の結婚相手に斡旋し暴利を貪る悪質ブローカーが上田市などで活動を始めたのが約10年前でした。また、小諸市、佐久市、上山田などのスナックに韓国、台湾、フィリピン、タイなどの女性を人身売買同然に、あるいは騙して連れてきて売春を強要するようになったのも約10年前からです。これら東南アジア出身の女性たちは、通常日本語を十分話さない外国人として日本社会に登場しました。
    彼女たちは、封建的な村社会、前近代的な男社会の中で、人間としての尊厳を無視され、時には安易な結婚相手として、単に子孫を残し、あるいは労働力として求められ、更に遺憾なことに人身売買や管理売春の被害者となっている人も多くいます。
    また、1980年代後半から1990年代初頭において、日本経済は未曾有のバブル経済となり、3Kと呼ばれる職場を中心に労働力不足はきめて深刻となりました。中小零細企業の多い長野県下の工場はとりわけ深刻な労働力不足にみまわれました。この様な労働力不足を補うため、県下の各企業の多くは東南アジア各国や、南アメリカ出身の日系人などの外国人を雇用しました。日本政府は単純労働に従事する外国人労働者を建前としては受け入れていないため、東南アジア出身の外国人などの多くは、観光ビザで来日し「オーバー・ステイ」の状態で働いたり、研修や就学名目で来日し実際には労働力として各種の職場で働いています。
    バブル経済が崩壊するまで、当局は半ば「不法就労」を黙認していたような印象を受けますが、バブル経済が崩壊した最近では、「不法就労者」や「不法滞在者」の取り締まりが厳しく、また、時には雇用主を「不法就労助長罪」で検挙することが増加して参りました。
    日本の職場で働くこれらの外国人労働者の多くも日本語を十分話すことができない外国人として日本社会に登場してきました。彼等は、「オーバー・ステイ」や「不法就労」の摘発におびえながら日々労働しておりますが、バブル経済の崩壊後、勤務先が倒産して賃金を支払って貰えなかったり、斡旋業者に賃金をピンハネされたり、慣れない労働に従事する中で労災事故の被害者となるなど労働者としての基本的な権利が十分守られていない状況におかれています。

  3. 第2 ケースごとに外国人の人権問題を考える(問題の所在)

    1. スナックで働く外国人女性の人権について

      重要な点は、彼女たちは「人身売買」や「管理売春」の被害者であるという視点です。半ば公然と彼女たちを100万円から400万円で売買しているブローカー、スナックの経営者、暴力団関係者、日本人男性が存在しています。これらの人身売買の代金は最終的には彼女たちの「借金」とみなされ、売春をして「返済」するより仕方ないシステムが形成されています。多くの場合この借金の返済が終わるまで彼女たちのパスポートはブローカーやスナックの経営者に取り上げられます。そして、彼女たちは日常的に暴力団やスナックの経営者らの厳しい管理下に置かれ、簡単には逃げることができません。しかも、彼女たちは「売春をして借金を返さないで逃げればどこまでもヤクザが追っていく。日本のヤクザは怖い」と日頃からスナックの経営者らに脅かされているのです。
      1951年に効力が発生し、日本も1958年に加入している「人身売買禁止条約」は、「売春を目的とする人身売買」を禁止していますが、日本の各地で未だに「売春を目的とする人身売買」が行われているという事実は実に驚くべき事であり、また日本人として恥ずべき事であります。しかも、彼女たちは「売春という性行為」を強要され、日常的に人間性を否定されている点において、戦前及び戦中に日本軍が組織的かつ大規模にアジアの女性たちに行ったあの「従軍慰安婦」と本質的には同じ重大な人権侵害の被害者であります。
      我々は、「人身売買禁止条約」が「売春を目的とする人身売買は人としての尊厳及び価値に反するものであり、個人、家族、社会の福祉をそこなう」と規定していることを改めて思い起こすべきであると考えます。
      ところで、日本の国内法では「管理売春」を処罰する法律はあるものの、「人身売買」そのものを処罰する法律が制定されておりません。日本はすでに人身売買禁止条約に加入しているのですから、「人身売買」を正面から取り上げこれを処罰する法律を制定するなどし、この種の重大な人権侵害を根絶すべきであると思います。

    2. 外国人労働者の人権問題

      日本と東南アジア各国間には国民1人当たりの国民総生産(GNP)で比較すると数倍から数十倍の格差があります。この様な経済格差を背景として外国人労働者は必然的に日本に入国します。法律で厳しく規制しようと、「需要のあるところには供給がある」という経済原則は避けようのない経験的事実です。
      外国人労働者の人権問題を考えるとき、忘れてならないのは雇用する側の存在であります。日本では「不法就労」だけが問題にされがちですが、「雇用」があってはじめて「就労」が可能であるという関係を我々は忘れてはならないと思います。
      ところで、労働者の権利を規定した日本の労働法規は外国人の就労が合法であろうと不法であろうと適用されます。また、労働基準法3条は「使用者は労働者の国籍により、賃金、労働時間その他の労働条件を差別してはならない」と規定しています。しかし、この規定が厳格に守られているとはいい難いうえ外国人労働者は会社側の都合によりしばしば簡単に解雇されます。また、労働法規違反がある場合でも、「不法就労」の摘発をおそれ関係官庁に申告できない状況に置かれています。なぜなら日本の法律は公務員に「オーバー・ステイ」の外国人の存在を知ったならば入管当局に通報しなければならないと規定しているからです。したがって、外国人労働者は労災の被害者となった場合でさえ「不法就労」の発覚を恐れ、会社側の提示する著しく低い補償金を受け入れざるをえない場合があります。
      1985年に国連で「外国人の人権宣言」が決議されました。この宣言は外国人の市民的自由や権利はもとより、経済的、社会的、文化的諸権利を「外国人の人権」として国際的に保障しようとする第一歩になりました。
      そして、1990年には国連で「すべての移住労働者とその家族の権利保護に関する国際条約」(いわゆる「外国人の権利条約」)が採択されました。残念ながら日本は現在のところこの国際条約に加入していませんが、この条約は今後の国際社会における人権思想の発展に大きな影響を与えると思われます。なぜならばこの条約はこれまでの人権条約と異なり、「不法滞在の状態にある外国人労働者とその家族」にも人権があり、権利があることを詳細に規定しているからであります。
      この条約は「移住労働者とその家族」の「生存権」「残虐で非人間的な取り扱いを受けない権利」「法の下で人間として認識され保護される権利」「移住労働者の子供について名前、出生の登録、国籍を持つ権利」「文化的独自性が尊重され、出身国との文化的つながりを維持する権利」「家族と同居する権利」などを詳細に規定しています。日本がこの条約に加入しこの条約の精神を生かす政策を強力に推進すれば、現在日本国内で発生している多くの外国人をめぐる人権問題が解決する可能性があります。

    3. 差別問題

      外国人の医療問題、外国人と日本人の間で生まれた子供の国籍・養育・教育をめぐる諸問題、在留資格や刑事裁判をめぐる諸問題などあらゆる分野で外国人をめぐる様々な人権問題が近年次々と発生しております。
      しかし、本日のシンポジウムの主たるテーマは不特定多数の公衆が出入りする施設などにおける外国人の利用拒否問題でありますので、この点について報告します。
      古くから、「外国人にはアパートやマンションを貸さない」という差別事件が日本の各地で発生しています。しかし、昨年6月18日、在日「韓国人」のケースですが、大阪地方裁判所は「韓国籍であることを主たる理由に賃貸契約を拒否することは信義則上の義務違反に該当するとし家主に慰謝料の支払い義務を認める」画期的な判決(判例時報1468号122ページ以下)を出しました。
      東京のあるレストランの入り口に「当店は日本人以外出入禁止です。Japanese Only!!」との掲示が入り口のドアーに張られ、アメリカ人留学生が入店を拒否される事件が発生しました。
      本年4月この事件が新聞の投書欄に掲載され読者の反響を呼びました。
      また、今年9月の新聞報道によると、少なくとも170カ所の会員制ゴルフクラブが「入会資格を日本人に限る」との規定をおいているとのことであります。
      この様な外国人に対する施設利用拒否問題などの差別事件について、国際社会はどのように考えているのか検討したいと思います。  現代社会は経済、文化、教育などあらゆる分野において国際化が進展し、もはや日本だけあるいは日本人だけの狭い感覚や意識だけでは、これからの日本人は国際社会の中で生きていけないと考えるからです。
      第2次世界大戦後、世界平和と人権擁護を目的に国際連合が結成され、1948年には世界人権宣言が、1966年には国際人権規約が採択されるなど過去50年間に国際人権法が大きく発展しました。国際人権法の2つの大きな柱は両性の平等問題すなわち女性差別撤廃問題と人種差別撤廃問題であります。人種差別撤廃問題に関し、国連総会は1963年11月20日、「人種差別撤廃に関する宣言」を採択しています。この宣言は「人種、皮膚の色または種族的出身にもとづき人間を差別することは、人間の尊厳に対する犯罪であり、…人々の間の平和と安全をみだすおそれのある事態として非難されなければならない」と明確に宣言しています。そして、1965年12月21日の国連総会は、「あらゆる形態の人種差別撤廃に関する国際条約」を賛成106カ国、反対国0国で採択しました。この条約は、いかなる人種的優越主義も科学的に誤りであり道徳的に正当化することはできないとの確信を強調した上、締結国は「国家自らが人種差別をしてはならない」ことを規定し、さらに、国内の私的団体や国民が人種差別をすることのないよう、「締結国は立法その他適切な措置をとらなければならない」と規定しました。特に第4条は「人種的差別を助長し扇動する私的団体の活動を禁止し処罰する措置」を締結国に課しています。
      1979年に国連で採択された女子差別撤廃条約も1965年に採択された人種差別撤廃条約も、国家による差別だけでなく、私的団体や個人による不当な差別も国際的に禁止しようとしている点に大きな特徴があります。人権を国際的に、すなわち地球的レベルで保障するだけでなく、女性差別と人種差別に関しては、国家のみならず個人による差別も許さないということが今や国際社会の人権思想の到達レベルであることを日本人及び日本社会は知る必要があると思います。
      ところで、日本は1985年に女子差別撤廃条約を批准しましたが、人種差別撤廃条約についてはどういうわけか未だに批准しておりません。
      しかし、すでに136カ国が人種差別撤廃条約を批准しております。特に、フランス、スイスなどこの条約を批准するだけでなく「人種差別禁止法」を国内法として制定し、レストラン・店舗・プール・学校利用などについての人種差別を禁止し、人種差別そのものを犯罪として処罰することさえしております。
      このように、不特定多数が出入りするレストラン・店舗・プールなどの施設利用に関し、人種や皮膚の色の違いにより区別し差別することは「人種差別」であり許されないとの認識が国際社会の中で形成されつつある時代に我々は生きていることを理解する必要があると思います。

      以上で私の基調報告を終えます。